文化の溢れるお寺を目指して/築地本願寺宗務長・中尾史峰

文化の溢れるお寺を目指して/築地本願寺宗務長・中尾史峰

2022.12.23
東銀座の人
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今と昔をつなぐ街、東銀座。街の風景は変わっても「築地本願寺」だけは変わらずに地域のシンボル的な存在として佇んでいる。今回は、この地域で長い歴史を持ち、住民やオフィスワーカー、観光客からも親しまれている寺院「築地本願寺」の宗務長・中尾史峰さんにお話をお聞きした。

以前にお話を伺った築地町自治会の江間会長が小さい頃に境内でとてもよく遊んでいたと仰っておりましたが、この地域ではどういった歴史があるのでしょうか。

江戸時代に浅草の近くで創建されましたが、「明暦の大火」と呼ばれる大火事で焼失し、この地に再建されたことが始まりです。それからも幾度か再建され現在の本堂の姿になりました。前身の本堂はかなり大きな木造であったようですが、関東大震災に伴う火災で焼失し、再建されたのが現在の本堂です。

とても荘厳な建物ですが、京都の本山とはまた違う趣なのでしょうか。

京都の本山と同様に木造の本堂を再建するという考えも当然あったかと思いますが、当時の浄土真宗本願寺派(西本願寺)大谷光瑞門主と親交の深かった、東京帝国大学(現在の東京大学)の伊東忠太博士の設計によるもので、インドの文化に造詣の深かった伊東博士が、当時としてはかなり珍しい本堂を提案されました。京都の西本願寺の伝道院も伊東博士が設計されていて、重要文化財に指定されています。いろいろなご縁があり、最終的にこのデザインを採用した当時の関係者は素晴らしい判断をなさったと思います。こういった本堂の建物であるからこそ、海外の観光客の方がご覧になっても、目を見張るような建物であることは間違いないようです。

その築地本願寺の宗務長になられたお気持ちはいかがでしょうか。

3ヶ月前にこちらに来たのですが、正直に申し上げると、京都の本願寺に45年間勤めていて、71歳にして単身、東京で生活を始めることには、最初は少し躊躇する気持ちもありました。来てみると、京都のゆったりとした時間の流れとは違い、東京に着いた次の日から、朝から晩まで多忙を極め、東京は23時間しかないんじゃないかと感じるくらいあっという間の3ヶ月でした(笑)。まだなかなか東京都内を見て回るというのも難しいので、来年から少しずつ動ければなと思っています。ただ買い出しなどで東銀座~銀座を移動する際には、不思議といつも歌舞伎座のある通りを歩いていますね。

夏に開催された「盆踊り」の様子

夏に「盆踊り」もご取材させていただいたのですが、築地場外のお店も出店されていて、地域との交流を感じました。春の「はなまつり」も近所のお子さまが参加していたり、〝地域に開かれたお寺″ということも意識されているのでしょうか。

関係者だけではなく付近の住民の皆様方のご支援がなければ成り立たないと感じておりますし、この地域で生きていく「築地本願寺」としては内向きであってはならないというのは当然のことです。本堂の開門・閉門に合わせて境内の門も開門、閉門ということがございますが、ここは朝は人が動き出す時間の前に境内を開門して、夜も遅くまで通り抜け出来るようにしております。つまり多くの方が活動される時間には境内に入れるようになっておりまして、それが伝統的な良さでもあり、たとえ通り抜けだけの方が多くても、築地本願寺を通っていくことが生活パターンになっていれば、何かあったときに本堂に向かわれることもあるだろうとも思います。築地場外をはじめ、築地の町の皆様には盆踊りの実行委員会を作っていただいて支えていただき、頭の下がる思いです。皆様に本願寺のことを考えていただけることは我々としてもとてもありがたいことですし、そのご期待に応えていくには何をしていけばいいのかなといつも考えています。

イベントもたくさん開催されていますよね。

屋外でまとまった大きな土地があるエリアは少ないようなので、そこも活用して今後もいろいろなイベントをしていきたいと思います。イベントで使用しているパイプオルガンは約50年前に寄贈いただいたものですが、今後また新しく寄贈いただけるとのことで、今からワクワクしながら待っています。

なかなかパイプオルガンを聞ける機会はないと思いますが、仏教寺院にあるというのも不思議ですよね。

仏教寺院になかなか馴染みがないようですが、意外と建物の雰囲気には合っているのかなと思いますし、コンサートも定期的に行っておりまして、そちらを楽しみにしていただける方は、ごく自然に受け入れていただいている印象です。

イベントで使用しているパイプオルガン

イベントがあると地域の方も境内に気軽に入りやすくなったり、参拝しやくなったりする効果もあるのかなと思います。年末年始も何か企画されているのでしょうか。

年末の法要として「除夜会」また年越しイベントとして「除夜のつどい」※新年の法要として「元旦会」をそれぞれ行います。特に「除夜の鐘」は新型コロナウイルス感染症拡大防止のため2年間は現地参加を中止していましたが、今年は実施する予定です。建物の屋上の上に鐘があるものですから、コロナの感染拡大防止の観点からも多くの方に昇っていただくのは難しいので、抽選で50名の方に実際に鐘を撞いていただき、さらに遠方の方でも参加出来るようにとオンライン企画として抽選で50名の方の分を職員が代わりに撞くという形で準備を始めております。またお正月らしさを演出するため6日頃まで本堂の階段の前に大きくお花を活けてお迎えする予定です。まだ感染拡大も終息したわけではありませんし、どこまで以前の形に戻すことが可能なのかということも手探りですが、参拝される方に喜んでいただけるような設えにしていきたいと思っています。
※今年度より年末の法要である「除夜会」と年越しイベントである「除夜のつどい」を時間を分けて実施することとなっております。

「除夜会」の様子
年末年始のイベント詳細はこちら

いつも年始に発表になる今年の「一文字」を楽しみにしています。

今年は『覚』でした。来年は何の「一文字」になるかはまだ申し上げられないですが、大学時代から“寄席文字”を練習しておりまして、今回は寄席文字で一文字を書く予定です。落語では橘流が使われていますよね。お客様がたくさんいらっしゃいますようにという願いが込められている書き方ですので、そういう願いを込めて書きたいと思います。

来年の「一文字」が何になるか、乞うご期待ですね!また「築地本願寺」といえば、カフェ「Tsumugi」の朝食「18品の朝ごはん」がとても話題ですよね。その朝食を通して仏教の教えを知るきっかけにもなっているのかなと感じます。

大きなきっかけづくりに役割を果たしていると思いますし、人気が衰えないですね。8時開店なのですが、7時30分頃からいつも列が出来ていて、予約で一杯です。ちょっと家族に食べさせたいと思っても、ちゃんと予約してくださいと言われます(笑)

授乳室があるのでお子様連れの方にもとても便利ですよね。

授乳室も大事ですし、トイレも公益性のある建物の生命線ですよね。LGBTQにも関わってくるので、ベースとなるトイレも総点検しようと思っています。いろんな方に喜んでいただけるような環境を整えていきたいです。

震災などの際にも地域の皆様に来ていただけるようにご準備されていると伺い、防災の観点からも地域に貢献ということを考えてらっしゃるのだと感じました。

公益の避難所のような場所にもなるでしょうし、帰宅困難者の方にも積極的にご利用いただけるように備蓄品は備えております。点検を怠ると、いざというときに間に合わないので、職員側も必要なこととしてきちんとしていかなくてはと思います。

最後にこの地域の皆様とは今後どうかかわっていきたいか教えてください。

法要や儀式では本堂が中心となりますので、イベントなどでは境内を使ってなるべく外に出ていきたいです。毎年4月上旬にお釈迦さまのご誕生をお祝いする「はなまつり」を行っていて白象が出るのですが、境内正面の新大橋通で白象を中心としたパレードをしています。お寺の中から外に出ていくひとつのきっかけにしていければと思います。また築地界隈で何かをなさる場合、お声がけをいけだければ積極的に出ていってお手伝いをしたいです。そして京都ではお坊さんをどこでも見かけるのですが、築地本願寺の外で法衣(ほうい)を着て歩いている姿はあまり見ないので、今後はどんどん積極的に法衣で近隣のお店などに出かけて地域の方と交流したいと思っています。

「はなまつり」を含む年間行事の詳細はこちら
「はなまつり」の様子

中尾 史峰(なかお・しほう)
築地本願寺宗務長。1951年生まれ。本願寺責任役員・執行を務めた後、2022年8月より宗務長に就任。

中尾史峰プロフィール

文:花登マユミ 写真:山崎ひとみ